読むめし

口で咀嚼するたけでは足りず、観念でも食べ物を愛でようとする人間

萩の街と松陰先生と、品質保証について思ったこと

萩市を歩くときは、吉田松陰を呼び捨てにしてはいけない。

市民は「松蔭先生」と呼ぶ、とどこかで聞いたのです。
 
せっかくそんな街を訪ねるのだから、松蔭先生のことを少しでも知ろうと、司馬遼太郎先生の『世に棲む日々』を探訪の前日に読みました。
旅の中で旅の予習をします。
 
旅の中で読めたのは、文庫本『世に棲む日々』全4巻のうち2巻の途中まででしたが、区切りとしては丁度良かったかもしれません。
いきなりネタバレで申し訳ないのですが、松陰先生は2巻の途中で亡くなります。
死のにおいを小説の中に散りばめながら、覚悟の死を遂げます。
世に棲む日日〈1〉 (文春文庫)

世に棲む日日〈1〉 (文春文庫)

 

 

そんな読書の熱量を持ったまま訪れた萩の街は、しかし、空模様の影響もあってか小ざっぱりとして静かでした。
 
 小ざっぱりとして静か、清潔で質素、そういった街の特色は、松陰先生の影響なのかもしれません。
とにかく志は熱くて「外国の船がきた!日本を救わなければ!」という一念のもとに行動するのだけれど、他の事には無頓着で日本中を駆け巡ったり幽閉されたりします。
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松陰先生という日本を動かした強烈な人物の影響なのか、あるいは萩の街がそういう人物を生んだのか、私にとっては鶏と卵の関係ですが、とにかくこの人物と街の雰囲気は分かちがたく結びついています。
 
(昨年のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』は萩をはじめ各地を舞台にした明治維新期の話だったらしいのですが、見ていませんでした。すみません)
 
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さて、実はですね、わたくし現在、派遣社員ですが品質保証の仕事をしております。
 
萩の街と、松陰先生の性質は、品質保証の考え方に一致するところが多いなあと、旅をしながら思ったのです。
 
製造の現場では、品質管理の基本として「5S」というのが掲げられています。
5Sとは、
 整理、整頓、清掃、清潔、しつけ
 
萩の街は全体的に、他のどの街より5Sが行き届いている印象です。
別に製造現場ではないのですが、全体の心がけとして極力余計なものや脂っぽさが無い街でした。
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一方の松蔭先生ですが、当時の日本の中では急進的な思想を掲げながら、徹底した現場主義者でもありました。
そうです、品質保証の基本として、さきに挙げた5Sの他に「現場主義」があります。
 
どんなに理論や思想を突き詰めようとも、現場には厳然たる事実があります。
 
そしてもう一つ、松蔭先生の意外な性質として、一つの学問を突き詰められないということが『世に棲む日々』に書かれています。
当時の学問の最先端を取り入れるためのオランダ語は、ついに苦手としたままだったそうです。
それでも何故日本を動かせたかというと、現場を確認し個別の情報を統合して全体像を掴む能力が高かったからと小説の著者は推測しています。
 
この「現場を確認し個別の情報を統合して全体像を掴む能力」は品質保証の基本として言われていることではないのですが、私が個人的に重要だと感じていることでした。
 
それでは、今回はこの辺で。